「町を歩けば妖怪にあたる。」ここは鳥取県の最西部にある境港市。「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる漫画家・水木しげる氏の故郷であるこの地では、町の随所で妖怪に出会うことができます。駅前から商店街、交番や街灯までが妖怪づくし。この「水木しげるロード」をはじめ、人口約3万人の境港市は近年のメディアを活用したまちづくりが功を成して観光名所として全国に知られるようになりました。
この境港市周辺には、実に多くの魅力があります。
3つの海に囲まれた風光明媚なこの地域は、日本海側に弧を描く弓ヶ浜半島の美しい海岸線が、東には雄大にそびえる大山を臨み、西の境水道大橋を渡れば島根県美保関町の豊かな自然や趣のある町並みを楽しむことができます。
この弓ヶ浜や美保関町は8世紀に編纂された「出雲国風土記」にも登場する歴史深い地域。
漁業・海運・商売繁盛を司る恵比寿様の総本宮である美保神社や、江戸時代に整備された参道の青石畳通りなど、古くから人々が暮らしてきた風景に思いを馳せたくなります。
そして、境港周辺の魅力はほかでもなく日本屈指の港町であること。
古くは北前船の主要港として、現在はクルーズ客船の寄港地でもあり、2023年には全国23港ある主要漁港の中でも4位の水揚げを誇る漁港として、海の幸にも恵まれた環境です。
そんな境港で地元名産のアジを使った究極のアジフライ作りに挑戦している会社があるというので訪れてみました。
訪れたのは、市内の工業団地の一角にある(株)角屋食品。境港(さかいこう)にも近いこのエリアには、近隣に水産物の加工会社や販売施設なども多くあります。
(株)角屋食品は2006年に創業。創業当初はアジをはじめイワシの団子、サバの煮付けなどのいろいろな水産加工商品を製造・販売してきた会社ですが、現在では境港産のマアジを使用した冷凍アジフライを主力商品としたもの作りが行なわれています。
今回ご紹介するのは(株)角屋食品が作る究極のアジフライ『鯵王』ホワイトラベル。本気を出したら、どれくらい美味しいアジフライを作れるかという挑戦から生みだされたというこの商品。
一般的なアジフライの約2倍、120g以上のマアジを使っているというボリューム感。そして贈答品としても喜ばれそうな高級感のあるパッケージにもこだわりを感じます。
この、『鯵王』ホワイトラベルの美味しさの秘密について、2016年に2代目として代表取締役に就任した角谷 直樹(かどたに なおき)さんにお話を伺いました。
角谷さんは農学博士でもあり、経営学修士。もともと大手食品メーカーで研究職に就いていて、先代の社長の病気を期に(株)角屋食品に入社しました。
良い商品を作るための手間ひまを惜しまない、という先代のものづくりの理念を大切にしつつも、代替わりをしてからは商品を絞り込み、定評があったアジフライに特化する方向へシフトチェンジ。アジフライカンパニーというコンセプトを立ち上げ、究極のアジフライ作りがスタートします。
「この会社と言えばこれ、という強みがある、そういう特化したものを持つことが自分の美意識としてあります。一方で、効率や管理の面でもなるべくシンプルにしていきたいという考えもありました。」と角谷さんは言います。メディアなどを通じて積極的にプロモーションを仕掛け、地元では『鯵王』ホワイトラベルのブランド認知も高まっているのだとか。
そんな、『鯵王』ホワイトラベルに使われるマアジは境港産の中でも「瀬付き」のものがメインで使用されています。瀬付きとは、浅瀬の岩礁などに棲み着くマアジのこと。回遊性の沖アジと異なり、浅瀬のプランクトンやシラスなどの良質なエサを食べて育ちます。体や尻尾はほんのり金色を帯び、色つやも美しいのが特徴です。
回遊性の沖アジは巻網漁法で大量に獲るのに対し、瀬付きのマアジは小さな漁船で獲るため、獲れる量はわずか。少ないロットだからこそ、魚の傷みも少ないのだそう。そして水揚げがあった日に届く、一度も凍結していない刺身品質のマアジの中から肉厚なものだけを厳選しているのだとか。
実は『鯵王』には、ホワイトラベルのほかに、最高峰グレードのブラックラベルがあります。 こちらは4月~8月に水揚げされる脂質含有量8%以上のマアジのみを使うため、期間限定でしか販売されません。そこで一年を通して安定的な供給をするために、ホワイトラベルでは脂乗りが軽いマアジを使用。ブラックラベルにはない特別な熟成工程を経て製造されるそうです。「熟成には脂が乗っているアジよりも、少ない方が適しているんですね、だからホワイトラベルにしかできないことをやろうと考えました。」と角谷さん。 およそ5日間の熟成工程を経て、アジの風味をしっかり引き出しています。
(株)角屋食品には工場棟とは別に熟成や加工具合を追求する研究棟があります。調理施設のほかに、試験管や計測器、撹拌機などが並ぶ様子は、まさに「ラボ」。感覚のみに頼るのではなく、うま味成分の出し方や青魚臭さが出ないようにする方法、パン粉の配合などの研究データをアウトプットしながら社内各部門のスタッフと試食や意見交換を重ね、更なる美味しさを求める研究が行われています。
また、環境への配慮も研究課題のひとつ。アジフライに使用しない頭、骨などを乾燥させて粉末にしたものを開発し、だしの素やせんべいなどにも有効活用されているのだそう。
最高のアジフライを作るためのこだわりはまだまだあります。骨や背びれ、ウロコなども一匹ずつ手作業で除去するほか、衣も手で丁寧に付けていくことで、マアジを傷めず、肉質の良さを最大限に活かしています。
パン粉は、アジフライ作りのために特注した生パン粉。パン粉メーカーのラボへ足を運び、何種類も試しながら理想的なサイズをミリ単位で探りながら編み出されたものなのだとか。この「粗めで固め」の特製パン粉は、『鯵王』ホワイトラベルならではのザクっとした食感と豊かな肉質との黄金バランスを保つのに欠かせない存在なのです。
実際に試食してみると、家庭で作るような細かいパン粉が均一にまぶされているアジフライとは食感が全く異なります。香ばしいザクザク感があるかと思えば、弾むようなアジの肉質が噛みしめるほどに混ざり合っていく、そんな感覚が楽しめます。臭みはなく、アジ本来の魚の旨味がぎゅっと閉じ込められた、熟成ならではの深み。初めから塩・胡椒だけでシンプルに味付けがされていて、ソースなしでもそのまま美味しくいただけます。
角谷さんには、(株)角屋食品のアジフライを天ぷらや寿司のような世界共通語にしたいという目標があります。自社の利益ばかりではなく、アジフライのブランド力を高めることでアジを獲る漁船、魚を卸してくれる仲買人、配送業者など、地元の水産業や地域経済の振興、そして鳥取県の創生に貢献したいという思いが原動力になっていると言います。
近年、漁獲量が減少傾向にある境港。角谷さんは弓ヶ浜から美保湾の海の景色を眺めながら、アジが獲れなくなっている中で、どう価値を高めていくかを考えるのだそう。 「この人口約3万人の境港から、アジフライが世界に羽ばたくのを見届けたい。」取材を通じてそんな思いが私の中に沸き上がりました。それは、そう遠い日ではないかもしれません。
文/六反いづみ 写真/小宮広嗣(一部写真角屋食品ご提供)
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