全長196km。四国山地の渓谷から、山里をたおやかに縫いながら土佐湾に注ぐ四国最大の河川。今回の旅は「日本最後の清流」として名高い高知県の四万十川に来ています。
梅雨空のもと、四万十川を象徴する「沈下橋」を上流から下流へといくつも訪れてみました。この欄干のない橋は、台風や大雨の多い地域ならではの形状で、川が増水した時に水圧や流木などで欄干が流されないように、また水面下に沈むようにと作られたものです。
流域には48の沈下橋があり、場所により少しずつ形が違うなど、それぞれの表情が異なるのも面白いところ。地元では生活道路として使われ、織りなす景観に人と川との暮らしの結びつきを感じることができます。
四万十川には昔からアユやウナギ、エビやカニなど約200種類を超える生物が生息していると言われ、その豊かな恵みが人々の食を支えてきました。四万十川に訪れたこの日、勝間の沈下橋のふもとで出会った地元の方が川エビが獲れたところを見せてくれました。昔はウナギも良く獲っていたそうです。
高知県の四万十川や仁淀川などの清流は天然のウナギが育つ絶好の環境でした。ほとんどが養殖となった今でもウナギは高知県を代表する食材の一つ。その都道府県別供給量は鹿児島県、愛知県、宮崎県、静岡県に次ぐ全国5位にランクインしています。
私たちが食べているウナギは、河川や湖で成長して、海で産卵をします。サケやアユのように川で産卵して、海で育つのとは違って、大変珍しい種なのだとか。そして、産卵する場所は日本から2000km以上離れた太平洋のマリアナ海域だとわかったのは2009年。意外に最近のことです。
日本では、稚魚のシラスウナギが鹿児島県や宮崎県、高知県や静岡県などの川を遡上して成長しますが、過程についての多くはまだ謎に包まれているため、養殖に向けた研究が進められているところです。世界の7割のウナギを日本人が食べているそうですから、ウナギを美味しく養殖する技術への期待は大きいですね。
そこで今回は、四万十川で獲れたシラスウナギを独自の方法で養殖・加工・販売している「四万十うなぎ(株)」を訪問してきました。。
「四万十うなぎ(株)」は高知県西部に位置する四万十町にあります。四万十川の中流域が町を横断する静かな町。社屋の前には田んぼと緑濃い山並みが見渡せて、実にゆっくりと時間が流れています。
1967年に創業して以来、加工・販売業としてスタートし長年ウナギを取り扱ってきた四万十うなぎ(株)。平成になってからは養殖にも力を入れ、四万十川で採取したシラスウナギを四万十川上流域にある自社の養殖場で大切に手をかけて育て、全国に出荷しています。
養殖から加工・販売まで全てワンストップ体制でできるのは、安心・安全面での強み。そして徹底した品質管理にはどこにも負けない自負があると言います。 そんなうなぎづくりへの思いを、営業部部長の中山さんにお話を伺いました。
ここ20年近く、ウナギの供給量は減少して今や稀少で高級な食材となりつつあります。そんなウナギの需要を支えるために、できるだけ早く成長させて多く出荷させたいと考える国内外の養殖業者も多い中、四万十うなぎ(株)は「早く・多く」よりも「本当に美味しいウナギ」を育てることを第一に養殖に取り組んでいます。
「ウナギの生育で大事なのは水づくりです。田んぼで言えば土づくりで、それと同じくらい水環境を大切にしています」と中山さん。養殖場の池に貼る水は、清流四万十川の伏流水を使用し、さらにエムタイトセラミックスという特殊天然鉱石を焼結させた天然セラミックで浄化を行っているのだとか。
9年前に新たに建てられた先進設備の養殖場は、一年を通じて水温が28℃に保たれています。また、光を遮ることは、水中の植物プランクトンの活性を抑えて水質を維持するほか、夜行性のウナギにもやさしい環境となっているそうです。デリケートなウナギをストレスから守るために、養殖池には一般的な数の半数程度のウナギしか入れないという徹底した飼育環境で24時間大切に管理されています。
養殖のウナギの美味しさの要となるのがエサ。身がふっくらやわらかく健康的に育つために天候や成長具合によって毎日調整しながら、四万十川の青のり、納豆、おから、酵素など栄養たっぷりのものを1日1回与えます。
「1日複数回エサを与えれば、大きくなるのは早いかもしれませんが、身が大きいだけでははうなぎ独特の豊かな風味が付かず、 淡白な白身魚のようになってしまいます。ですので私たちはウナギの健康的な生育過程に合わせて適量のエサを与えながら、じっくり時間をかけて味わい深い成魚に育て上げています。 エサも与えるものや配合を色々研究しながらウナギの味が最も美味しくなるように考え抜かれたものなんです。」 この山中さんの言葉から、大量生産やコスト優先ではなく、あくまでも美味しさを追求する姿勢が伝わってきます。
こうしてすくすくと育ったウナギは池上げされ、身を引き締め、肉質を良くするために地下天然水にさらしながら数日間エサ抜きを行い、臭みが取り除かれた状態で加工されます。
エサ抜きが終わり、水揚げされたウナギはすぐに自社工場でさばかれます。 工場では旨さを引き出す「焼き」と「蒸し」が行われますが、ここにもこだわりがあります。 「ウナギは焼きが甘いとブヨブヨと水っぽくメリハリのない味になってしまいます。ですのでしっかり焼き上げることを大切にしています」と山中さん。
ウナギそのものの味が活かされる「白焼き」は強火でしっかり、「蒸しうなぎ」は皮まで柔らかく風味と食感を逃さないように、 「蒲焼き」はパリッとした皮とふかふかの身のバランスを見ながらしっかり4回タレ付けをして焼き上げます。 1回ごとに焼いては付け、を繰り返し絶妙な香ばしさに仕上げていきます。
タレは半世紀前から継ぎ足しながら受け継がれてきたもので、ほんの少しだけ改良を加えたものの、 ベースの味は変わらないのだそう。化学調味料などは一切使用していない秘伝の味は、外すことのできない蒲焼の影の主役でもあります。
山中さんに、四万十うなぎの楽しみ方について質問してみたところ、「やっぱり白焼きにワサビだけを付けて食べることですね。」と教えてくれました。 白焼きは塩、醤油、油などを一切使わず素焼きをするため、ウナギの本当の美味しさが問われます。
四万十うなぎは、きれいな水で、豊富な栄養を摂りながらゆったり、じっくり大切に育て上げられたので、泥臭さや脂臭さがないそうです。 美味しい食べ方、という以前に、ウナギそのものがすでに美味しいのです。
創業以来、一切の妥協をせずに美味しさを追求している社長の信条は“まず、ひと口食べた時に違いが判ってもらえること”。 それを社長の高知弁で伝えてみると「まあ、いっぺん食べてみいや」なのだそう。
私も「まあ、いっぺん食べてみよう」と白焼きを購入して帰りました。 実際にいただいてみると、なるほど、程よい弾力もありながら、口に入れるとふわふわととろけるようなコク。そしてギュっと濃縮されたうなぎの風味がいっぱいに広がります。 濁りのない旨味、それは、四万十川の清流と美しい自然を彷彿させる味わいでした。 もうすぐ土用のうなぎの日。皆さんも「まあ、いっぺん食べてみいや。」
文/六反いづみ 写真/小宮広嗣
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