未利用魚を活用したサステナブルな挑戦
横浜丸魚(株)の「特製サバまん」

「未利用魚」という魚の存在を知っていますか?

未利用魚とは、魚体の大きさが規格外、漁獲量が極端に少なくてロットがまとまらない、また、知名度が低い、そして取り扱いに手間やコストがかかるなどの理由から、獲れても市場に出荷されない魚たちのことを言います。美味しく食べることができるのにも関わらず、買い手が付きにくく、漁師さんたちの希望の価格で売れない可能性が高いため、「売りにくい魚」ではありますが「食べることができない魚」というわけではありません。

未利用魚が出やすいのは、水揚げされても現地周辺で加工や冷凍する工場が少ない小さな規模の漁港です。神奈川県は三崎や小田原の漁港以外は小さな漁港が多いため、未利用魚が出やすい環境となるのです。

従来、未利用魚は漁師さんたちが自身で食べたり地元で消費されたりしてきましたが、小さな魚などの獲れ過ぎが続いてしまった場合は安値で販売されるほか、廃棄されることもあります。このような状況が多ければ漁師さん達にとっては効率が悪く、収入減にも繋がってしまいます。水産業を生業としている私たち横浜丸魚(株)は、漁師さんたちより1円でも高く魚を買うためのたゆまぬ努力を続けています。

近年、フードロス削減やSDGsの意識の高まりとともに、この未利用魚がクローズアップされてきています。日本の漁獲量が年々減少している中、業界の課題の一つとして、私たちは以前よりこの未利用魚の活用に注目してきました。

そんな、数々の取り組みの中で登場したのが未利用魚を活用した中華まんじゅう「特製サバまん」です。今回は、特製サバまんが誕生した背景や、商品づくりについて横浜丸魚(株) 常務取締役 本社営業担当 源波(げんば) 秀樹(写真右)と、執行役員 本社総務部 部長 佐藤 彰(写真左)の2人よりその取り組みについてご紹介していきます。

美味しくて、サステナブルな魚食を求めて

これまで私たちは、神奈川県で多く出やすい未利用魚のサバを「竜田揚げ」として横浜市内430校の小学校給食に導入したほかにも、「サババーガー」や「サバカレー」そして「キャベツウニ」、「アイゴバーガー」など学生団体とコラボをしたり、イベント等による販売を行ったりするなど、市場として未利用魚の活用に数多く取り組んできました。

「なんとか未利用魚を消費に繋げて、漁師さんを手助けできないか、という思いから、2018年に経営企画課で丸魚オリジナルの商品の開発がスタートしました」と佐藤が経緯について語ります。

開発したのは未利用魚のサバを使った中華まんじゅう。竜田揚げや餃子など様々な候補の中から商品化が決まりました。
神奈川県の市場は横浜にあること、そして、中華まんじゅうと言えば横浜のご当地グルメであることも決め手の一つに。「豊洲市場との差別化という点でも神奈川や横浜らしさのアピールポイントを作りたいと考えましたが、未利用魚の活用はそこにも繋げることができました」と源波も開発当初の思いを巡らせます。

商品は横浜市内の老舗食品メーカーでOEM製造され、神奈川県下で獲れる未利用魚を使うことで「地産地消に寄与する」という点でも、展示会では地元の各界に興味を持っていただくことができ、SDGsが注目されてからは様々なメディアでも取り上げていただきました。

味づくりについては、サバの独自の香りを抑えつつ、多くの人に喜ばれる商品を作りたいと考え、サバの旨味に合う味の候補を検討しながら最終的にチーズカレー味とバジルトマト味の2種類に絞り込みました。

大きさは開発当初のビッグサイズよりも食べやすいボリュームにするために少しコンパクトに、また、冷凍の3個入りタイプからチルドの個包装タイプに変更するなど、より手軽に食べられるように改良が重ねられましたが、これで完成形ではなく、消費者の生の声を聞きながらさらなる改良を加えていく予定です。

特製サバまんの製造現場をレポート

実際に、横浜市内にある工場で「特製サバまん」を製造している現場を見学させていただきました。この日製造していたのはチーズカレー味。製造現場に入るには、製造スタッフと同じく専用着に着替え、エアーカーテン、入念な手洗い、消毒など徹底した衛生管理をクリアします。
工場の中に入るとまず大きな材料の撹拌機が目の前に。ここで特製サバまんの皮となる材料を入れて混ぜ合わせます。

湿度や温度に合わせて撹拌された生地の品質を丁寧にチェック。その後、オリジナルに調合されたサバ入りカレーと丸く成形されたチーズを皮に包む特殊な機械にかけます。この工程が美しい形状と、具と皮の絶妙な収まりを決める重要なポイント。出来上がった時の立体感を出すために絞りの入れ方までも計算されています。

成形された特製サバまんは、一定の時間をおいて発酵させます。生地の状態や室温により仕上がりが左右するので、数値や状態を入念に確認しながら行われます。最高の状態を見計らっていざ蒸し器へ。

待望の蒸し上がりの瞬間、カレーの香りがマスク越しにも伝わってきます。出来立ての特製サバまんはとてもつややか。ほかほかの皮をそっと割ってみると、具の中心にチーズがとろ~りとなめらかにとろけているのがわかります。風味豊かなカレーとナチュラルチーズのコク、そして程よいサバの旨味がもちもちに蒸し上がった皮と相まって食欲をそそります。この後は、粗熱を取って一つずつ包装されます。

工程ごとに品質チェックが行われ、先進の探知機と目視、データを駆使した徹底した品質管理のもと、特製サバまんが出荷されていきます。保存料や合成着色料を一切使わずに、サバの香り、具とのバランス、皮の厚みや彩りまで、安心・安全で全て完璧に仕上げる技術は、老舗食品メーカーならではのノウハウの賜物だと感じました。

「未利用魚」が「利用魚」になる日へ

今回開発された特製サバまんは、今ご覧いただいている『丸魚濵食』のサイトでもお買い求めいただけるほか、今後はスーパーやイベントなどでも販売していく予定です。開発着手から4年。この間にコロナ禍によりイベント等での販売などができない時期もありましたが、先日みなとみらいの日本丸メモリアルパークで開催された「さかな文化祭」では、おかげさまで900個が完売となりました。

販売ブースに並んでくださった多くの方々とのふれあいや、笑顔で召し上がっていただく様子を見て、特製サバまんを開発して良かった、という思いがこみ上げるとともに、これからも続く道のりへの背中を押していただくことができました。

横浜魚市場を中心に、私たちは水産業に携わる一員として特製サバまんを通じ、未利用魚のことやサステナブルについての思いもお伝えできればうれしく思います。ぜひ手に取って味わっていただけたら幸いです。

文/六反いづみ 写真/小宮広嗣・辻下英之

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